世の中には様々な契約がある。人々は言う。「どのような契約であれ、その内容に合意して結んだのであれば、従うべきだ」。しかし私はそれを否定する。両者の合意があろうとも、契約の内容が人権を侵害するものであるならば、その契約は無効とするべきだ、と。
この問題を語るとき、もっとも単純化されたサンプルは、「アイドルの恋愛禁止規則」だろう。しょっちゅう問題になっている。だからまずはそこから話を始めよう。
アイドルのことはさっぱり分からないが
私はテレビを見ない。見なくなったのはいつ頃だろうか。地上波がデジタルになるだいぶ前から見なくなっていた。そんな私でもAKB48というアイドルグループは聞いたことがあった。秋葉原のオタク向けのアイドルという認識しかなかったため、いつの間にか有名になっていて驚いたのを覚えている。
アイドルとの契約に恋愛禁止規則なるものがつけられるようになったのは、AKB以降じゃないだろうか。もっとも、私が聞いた話によれば、AKBやそれに類するグループにはそういう契約はないようだ。あくまでも、商品価値を守るための約束にとどまっているらしい。
最近であれば、須藤凜々花さんという方がグループ在籍中に恋愛をして結婚宣言をしたことが話題になった。これなんかもルール違反なんだからやめるのは当然だとか、地獄へ落ちろ的な憎しみに満ちた暴言を目にしたように思う。
私はこの人のことは全く知らない。NMB48というグループも分からない。いつの間にか増殖していた、プロレス団体みたいなアイドルグループは全部さっぱり分からない。
NWF = プロレス団体
NWF48 = アイドルグループっぽい
不思議!
・・・いや、そんなことはどうでもいい。
何にせよ、恋愛禁止規則に合意して契約を結んだのだから、それを守らないのであれば解雇されるのも、非難されるのも当然だという考え方が何を導くか、それを見てみよう。
東京福祉大学のセクハラ事件
2008年、東京福祉大学でセクハラ事件が起きた。当時の総長だった中島恒雄が、その地位を利用して、職員の女性達に性的な行為を行った。
事実として今調べられることはそれほど多くはない。当時の記事であれば、総長室には別室があり、そこへ女性を連れ込むことは常態だったとか、そういう記事もあったはずなのだが、今となっては断片しか残されていない。
今でもすぐに確認できる事実としては、中島恒夫が逮捕され、起訴され、二審によって懲役2年の実刑判決を受け、それが確定したということだ。
この事件の被害者は同大学の職員だった。総長というのは偉い。すごく偉い。だから、立場上いうことを聞かないわけにもいかない。そのため、手をつけられてしまったということだった。今のところ、このようなセクハラは許されていない。だが、許されてしまったらどうしよう?
性的奉仕契約・・・ではすまない可能性
仮に、仮にだ。総長が就職希望者に対して、「就業時間中、俺様が求めたら、俺様に対して性的奉仕をすること」という契約を提示していたらどうなるだろうか。その契約を示された上で、それに合意して契約したならば、総長は何も悪くない。契約をしておきながら訴えるなんてとんでもない女だ、と、そうなるのだろうか。
もし、セクハラを受け入れることという契約に合意させさえすれば、いくらでもセクハラしてよいという主張がまかり通った場合、じゃぁ、多くの企業がこぞってそういう契約を突きつけ始めたらどうなるだろう。これは、女を邪魔者扱いする企業にとっては好都合だろう。受け入れられない条件を突きつけておけば、女の方から入社希望を取り下げてくれる。厄介者を雇わなくてすむ。
最悪、契約に応じられてしまっても、それならそれでおいしい思いができる。
「結構なことじゃないか」と、男女差別論者はいうかもしれない。だが、彼らは事態を理解していない。これは、性的奉仕などでは問題が収まらなくなる可能性がある。たとえば、臓器提供契約の可能性もある。
会長、社長、部長に課長。上司もしくはその家族が病気や怪我によって臓器の提供を必要とした場合、部下であるあなたは必要な臓器提供に応じなければならない。そういう契約書が突きつけられるようになったらどうするつもりだ? 仕方ないよね? 契約結んだんだもん。合意したんだもん。
だが、こんなものまで許すとなれば、それはもう人身売買だ。当然、先進国としてそんなものを許すわけにはいかない。どこかで歯止めが必要になる。それはどこか? どこに線を引けば筋が通せるか?
これまでの流れは、「契約を結んだんだから従わなければいけない」から生まれた。それを前提にする限り、この流れをそれることはできない。「たとえ合意して契約を結んだとしても、従わなくていいものもある」ということを受け入れる必要がある。
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