2018年2月20日火曜日

間違いが証明できないことは、正しいことが証明されたことにはならない(2)

間違いが証明できないからといって、その考え方が正しいとは言えない、という話をした。しかし、似たような考え方に、このようなものがある。

「俺様の主張の正しさが証明できないとしても、俺様はお前よりはこの分野について詳しい。だから、お前はこの件については俺様の主張を受け入れなければならない」というものだ。

つまり、真偽は不明だとしても、より詳しい人物の主張は受け入れるべきだ、ということだ。このような主張は、半端に詳しい人が好むように感じているが、もちろんこのような言い分を認める必要はない。

チンギスハーンの正体は源義経だった


歴史というのはなかなかにめんどくさい学問だ。意外と実際の歴史というのは知ることが難しい。昨年の大河ドラマになった井伊直虎が実は女性ではなかったとか、そういう資料が見つかったりもしている。

松永久秀が本当に裏切りマニアだったのかにも異論があるし、三国志とかになると知られているほとんどは小説由来だったりする。

そして、歴史などというものは一般的にはあまり興味を持って調べるようなものでもない。一部の歴史マニアとか歴史オタクが学んだり、あるいは歴史ゲームから吸収するのがほとんどであって、一般教養として学ぶ歴史は、教科書レベルでしかない。

すると、一般人は歴史オタク的な知識は持ち合わせていないことになる。当然、先の主張「詳しい人間の主張を受け入れるべきだ」を受け入れてしまえば、一般人は歴史オタクの主張を認めなければならなくなる。

ところがそうすると問題が出てくる。

学者達には相手にされていないような主張もある。その一つが、「チンギスハーンの正体は源義経だった」という説だ。

これ、本当にあるからね? 解説用の作り話ではない。

しかも、もはやまともに相手にされていない説とはいえ、否定されるまでにはそれなりの研究がされている。様々な資料や、根拠によって、そのような主張がなされた。当然、それなりの知識がなければ、それを否定する根拠も示せない。

この説を支持する歴史オタクが、一般人相手にうんちくを語るなら、もっともらしい言い分に見せることができるだろう。

すると、彼らはチンギスハーン=源義経説を信じなければいけなくなってしまう。そんな馬鹿な。

似たようなものには「南光坊天海の正体は明智光秀だった」とかもある。歴史学者からはもはや顧みられないような主張だとは思うが、それなりにもっともらしい根拠はある。

戦国時代の知識のない人間に対してであれば、さも真実のように語ることはできるだろう。

では誰の主張を信じればいいのか


さて、自分より詳しいというだけで、相手の主張を信じる必要はない。では、どういう人間の主張ならば信じる必要があるのだろうか?

明確な基準はない。ただ、妥当と思われる基準ならばある。

保証のない世界。確実なものなどこの世に存在しないなどでも書いたが、絶対に正しいと言い切れるものはない。どのような主張であれ、それが本当に正しいかどうかは不明だ。

世界中全ての人間が「地球は世界の中心だから動くはずがない」と言ったとしても、だからといってそれで天動説が正しいということにはならない。真実は多数決で決めるものではない。

だから、誰が言ったことならば信じていいとか、何人が信じていれば信じていいとか、そういう基準はない。

が、十分な研究の下に専門家達が受け入れている主張は、一般人としても受け入れておくことが妥当だろうとは思う。専門家だからといって間違わない保証などはない。それは当たり前だ。しかし、誰でも間違う可能性はあるが、一般人よりはきっとその可能性は低そうだ。

まして専門家達の間で主張が一致しているのであれば、なおのことそれが間違っている可能性は低いし、もし間違っているとしても、よりもっともらしい主張をできる人はいないだろう。

これは結局、科学者を信じるか、占い師を信じるかという問題だ。科学者が間違い、占い師が言い当てる可能性は否定できない。しかし、科学者が人間の知性に基づいて真実を明らかにしようとするのに対し、占い師は言い当てるだけだ。

このように科学的な考え方を支持する立場に立つならば、我々は専門家達の一般的態度を踏襲するのが自然だ。「自分より詳しい人」ではなくて、「その分野の研究者達の一般的態度」を参考にする。

これならば、自分より詳しい人がどのような主張を展開しようとも、専門家達の主張を参照すれば済む。特殊な説に拘泥する人に惑わされることなく、より一般的に認められている主張を支持する土台を得られることになる。

つまり一般人は、自分より詳しいことを鼻にかけて変わった説をひけらかす人に向かって、「それが本当に正しいなら、学会を納得させてこい」とだけ言い放つことができるようになるわけだ。




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