2017年11月30日木曜日

将棋の棋譜の著作権は保護されていないが、本当にそれでいいのか

将棋には棋譜というものがある。対局者達の指し手を記録した符号集のことだ。▲76歩、△34歩、▲26歩、△84歩とかそういうやつ。

昔から議論があるようなのだが、一般的な解釈としては、棋譜の著作権は保護されないものだと考えられている。つまり、複製や公開が自由とされている。

先日、朝日新聞社主催の対局の棋譜をリアルタイムでYoutubeで再現し放送していた人が、朝日新聞から放送の停止を求められた。これは、対局に関わる独占的放送権を根拠としたものなので、棋譜の著作権問題とは直結しない。

が、この問題の時に、ある弁護士が棋譜は著作物ではないと主張していた。今回扱うのはそちら側。棋譜は本当に著作物ではないのかどうか。著作権を守らなくてよいのかどうか、と言う話を語ってみる。

機械的な非創作的な記録


弁護士の主張ではこうなっている。

「単なる事実を、機械的に、非創作的に記録しても、著作物には該当しない。そこには創意工夫がない」。

確かに棋譜というのは、棋士の指し手を規則的に記録しただけでしかない。そこには創作性はないし、機械的手続きによって誰でも同じ対局から、同じ棋譜を書き出すことができる。

しかしながら、だから著作物ではない、それは自由に生成したり複製したり公開してよいとなれば、大変なことになる。事実上の著作権法の放棄だ。

例えばインターネットで演奏が放送されていたとしよう。それを現在のようなやり方で録画したり、録音したりした場合、そのデータは勝手に公開することはできない。演奏は著作物として、著作権の保護を受けている。

しかしながら、前述の弁護士の言い分に従って「機械的に、非創作的に」記録したならばどうだ? 音楽などというものは結局は音の集合だ。音とは空気の振動だ。すなわち、空気の振動の連鎖が音楽だ。

と言うことは、ある機械を用いて、「機械的に、非創作的に」ある周波数と、その周波数が生じたタイミングを記録することで、音楽を再現することができる。これは録音とは違う。

周波数とタイミングしか記録していないので、音色は好きに変えられる。どの楽器を使ってその周波数を発生させるかを変えられる以上、音声の録音とは違う。録音データで楽器の種類を変えることはできない。

すると、このデータは著作物ではない。ある瞬間にある周波数の振動が発生したという物理的事実を、機械的に、非創作的に記録したものでしかないからだ。

よって、これを公開しても、著作権の侵害には当たらないと、そう結論することになる。

いいのかそれで?

映像も同じだ。モニター上のあるピクセルに対してあるカラーコードのドットが表示されたという事実を、機械的に、非創作的に記録しただけならば好きに公開してもいいんだろう?

スコアとの違い


また、棋譜は野球で言えばスコアのようなものだから、著作権の保護を受けるわけがないという意見もある。これは大間違いだ。

野球のある試合が2-1でチームAが勝ったという知らせを受けたとしよう。それで、何回に何点取ったのかが分かるだろうか? ヒットは何本だったとか、ファールは何本だったとか。ある選手の打率、盗塁数など、そういったものが分かるか?

分かるわけがない。2-1で決着する試合など、無限のパターンが存在する。

しかし棋譜は違う。棋譜には、棋士の指し手の全てが記録されている。棋譜さえ見れば、棋士が何をしたのかは全部分かる。分からないのは、どの手に何分使ったか、扇子を何回ぱちぱちさせたか、お昼に何を食べたか、そういう将棋の対局上の出来事とは関係ないことだ。

将棋を形成し、成立させているあらゆる出来事が棋譜には記されているという点で、試合の内容が全く分からないスコアとは本質的な違いがある。よって、棋譜とスコアを同列に扱うことはできない。

著作権法の不備


とはいえ、弁護士が言うくらいだし、一般的にも認められているのだから、棋譜に著作権がないという考え方が間違っているというわけではないのかも知れない。現行法では、そう解釈すべきなのかも知れない。

だとすれば、できるだけ早く著作権を改正するべきだろう。

現代ではあらゆる事が、「機械的に、非創作的に」記録できる。にもかかわらず、だから著作物じゃない、などと言っていたら、著作権で保護できるものなどなくなってしまう。

私はあまり著作権についてうるさい方ではないと思うが、だからといって全く保護しないというのも問題があると考えている。機械的だったら何してもいいというのはいくら何でもアナーキーなので、さすがにその言い分は認めるべきではないだろう。




2 件のコメント:

  1. 囲碁や将棋の棋譜は誰のものなのでしょうか、大げさですが一手一手に棋士人生の集約ともいうべき創意工夫がなされていると思います。すぐれた対局は芸術品ともいえる著作物でしょう。対局料を払うことによって著作権がスポンサーのものになるのでしょうか?

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    1. コメントをありがとうございます。

      お尋ねの「棋譜は誰のものなのか」についてなのですが、私は法律の専門家ではないため、正確にお答えすることができません。すみません。

      私が把握している限りだとこんな感じになります。

      棋譜は将棋連盟が管理しているようです。法律上所有権を有するからなのか、慣例上そういう感じで扱われているからかは分かりません。

      棋士は自営業なので、被雇用関係にありません。そのため、「業務上制作された著作物の権利は、会社が有する」という法律がそのまま適用されないので、棋士と連盟とスポンサーの間でかわされている契約内容次第のように思います。

      それらの所有権の問題が取り上げられない理由は、所有権の保持者が明らかになっても、特に誰も得をしないというのがありそうです。

      誰の著作物なのかが明らかになっても、その著作権が保護されないというのが一般的な見方である以上、得がありません。

      そのため、実際上の保有者が誰なのかは明確にされていないのではないかと考えています。

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