2017年9月14日木曜日

クラウドソーシングにおけるライターの報酬安すぎ問題について(2)


クラウドソーシングでのライティングの報酬が安いため、人によってはこういった仕事を規制するべきだということもある。それによってライターの収入を保障するべきだと。

とはいえ、私としてはそのような規制をしても仕事の総量が減るだけで、ライターが儲かるようになるわけではないと思うし、実際のところ現状はそれほど悪い状態ではないと思っている。

どのくらいのクオリティが期待されているのか?


すでに報酬事情は説明したが、現状説明が足りていないように感じる。そこで、報酬以外の点での、現状を説明しておこう。

基本的にクラウドソーシングのライティング案件の報酬が安いことは確認した。それは確かだ。では、それらの依頼ではどの程度のクオリティが求められているのだろうか?

もしプロと同レベルのクオリティが求められているのだとすれば、プロには遠く及ばない報酬では不当だという主張も分からないではない。しかし、実際のところ、そこで求められているのはもっとずっと遙かに、もう誰が書いてもいいよ、というレベルのものだったりするようだ。

いや、誰が書いても、と言うのは行き過ぎなのかも知れない。中にはそういうものもあるかも知れないが、0.3円くらいのものになると、もうちょっとマシなレベルを期待されている可能性はある。だが、プロレベルが期待されているなどと言うことはあり得ない。

実のところ、私の文章が歓迎される世界だ。私もここ一年でずいぶん文章を書き慣れたし、成長した部分もあるにはあるだろう。だが、さほど劇的な変化があったとは思わない。だいたい、初めから今みたいな調子で、すごく普通に書きやすい文章を書いていた。

それでも最初から文章を褒められたし、報酬の値上げの提案を、クライアントの方からしてくれたりもした。今まで依頼を受けたクライアントが10人ちょっと。そのうち4人の方が、値上げをしてくれた。もちろん、私の方から要求したわけではない。

ここで重要なのは、それでいくら上がったのかという部分ではない。上がったこと自体が問題になる。なぜならば、初めから私くらいのレベルを期待していたのであれば、その期待通りの相手に対して、報酬を上げるはずはない。

報酬を上げたということは、当初の予定では、もっと低いレベルでもいいと思っていたことになる。

そう。今、諸君等が読んでいるこの文章。別にたいしたことのない、誰でも書ける、俺だって書けるぞこのくらいと思っているであろうこれが、クラウドソーシングでは期待されている以上の文章ということになっている。

それほどまでに、期待されているクオリティは低いんだ。ならば当然、依頼側が用意する報酬も、それに相応しいものになるのは当然だろう。

現状はどのくらいライターにとって不利なのか?


さてそもそも、なぜ人はクラウドソーシングで依頼を出すのだろうか? プロなど一握り、アマチュアばかりがごった返している場所で、依頼を出す理由は何か?

光る原石を見つけたいから? もしかしたら逸材が埋もれているかも知れない?

いやぁ、どこぞの新人文学賞じゃないんだから、そんなご大層な目的で求人を出す人はほとんどいないだろう。

理由は簡単。経費を節約したいからだ。

費用をかけてでもプロがほしいなら、プロに直接依頼すればいい。でもそれじゃ高い。そこまでのクオリティも必要ない。だからクラウドソーシングを使う。

この、安かろう悪かろうを受け入れているクライアントが多数いることによって、クラウドソーシングのライティング案件は繁盛しているように見えている。この状況で、安かろう悪かろうを規制するとなれば、規制の穴をついてくぐり抜けるか、さもなければ依頼を取りやめるか、どちらかが普通だろう。

この状況に変化があるとすれば、クライアントが高くても質のいいものを求め始めたときになるが、それにクラウドソーシング側が対応できない。それだけのものを安定して供給できるほど、ライターの能力が保証されていない。

そして、ライターの能力を保証するシステムも存在しない。たとえばライター登録のための実力テストでもして、それを正しく判定できるようなシステムでもあれば、一定以上のクオリティのものが安定供給できるが、それもない。

しかも、そういうシステムになってしまったら、そのレベル未満のライター志望の人々は、経験を積むことすらできなくなる。趣味として、余っている時間の切り売りとして、なんとなくライティングをしている人たちも追い出されなければならない。

それが、そんなにいいことだろうか。

低額案件があっても、受ける気のないライターに影響はない


もう一つ大事なことがある。

実際のところ、最低賃金を大きく下回るような依頼も多いが、バイト代くらいにはなる案件もないことはない。数の上では少数だが、そういうものもある。

ある程度実績も積み、できることも増えていけば、評判もよくなるし自信もついて、そういう依頼を受ける機会もあるだろう。そうなってくると、だんだん、低額の依頼は受けなくなっていく。

もっと条件のいい、やっていて興味深い仕事を受けられるなら、そっち行くでしょ。低額案件がそのまま高額案件になるなんて、そんな都合のいいことは起きない。もし起きたとしても、フリーランスの急増という事態を招き、同業者が増えて受注率が減るとか、需要と供給のシーソーゲームの結果として、報酬が元に戻るとか、そういう結果が出るだけだ。

どうせある程度慣れてくれば仕事を選べるようになるわけで、そうなったらやる気にならないような仕事は、やらなければいいだけでしかない。

そもそもやる気になる仕事が一つもないなら、現状のクラウドソーシングは向いていないのだろう。プロとして直接仕事をとってくればいい、ということになる。

そうしてみると、条件の悪い仕事がいくらあったとしても、もはや私にはあまり関係がないし、それがどれほどあふれていても、仕事が減って時間が余りすぎたときにでも臨時で受ければいいかなという、予備に使えることになる。

棲み分けは可能だ。

そして、それらクオリティを求められない低額案件は、経験を積むにはちょうどいい。質を求められていない仕事をしても経験にならないという意見もあるようだが、そんなことはない。徐々にであろうと質は勝手に向上するものだし、何より自信を得ることには繋がる。

まずは人前に自分の文章を晒すという、我々にとってはごく当たり前のことにすら抵抗を持つところから始まるはずだ。それを、少しずつ慣らしていくことができる。

まず1を経験し、その延長線上にある、同種の依頼なら受けやすいだろう。そこでの反応をもとに、一歩ずつ仕事の幅を広めていけばいい。

実を言うと、低額案件を規制することで、ある程度以上のライターの収入が増加するというのは間違いではない。若干時間のかかる道のりにはなるが、確かにそうなる。

人はまず、簡単な仕事から始め、経験を積んで少しずつ難しい仕事に挑戦していく。これが普通だ。

その、経験を積むための簡単な仕事がなくなれば、成長できるライターが少なくなる。つまり、すでにライターとして活動している人間からすれば、同業他者、すなわちライバルの育成効率を下げることができる。

商売敵が増えない方が、儲けやすいというのは当たり前だろう?

だが、私自身簡単な仕事から始めて経験を積んだわけであり、この成長ルートを閉ざしてしまうのは気が引ける。その方が自分にとって有利なのかも知れないが、自分の受けた恩恵だ。他者が受けることを妨害するべきとは思わない。

そういうわけで、私はクラウドソーシングのライティングの報酬が安いことは認めるが、これを強制的に変えてしまうべきだとは思っていない。これはこれでいい部分もあるし、助かっている人もいるはずだ。




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