2017年8月22日火曜日

統計に注意-就職氷河期でも就職率92.8%のトリック

私は常々、統計データの扱いには注意を呼びかけている。統計というのは便利な手法だが、扱いには慎重さが必要だ。

しかし多くの人々は統計データの扱い方を全く心得ていないし、データが意味する内容を確認しようという意識を持ち合わせていない。

今回は、「嘘はついていないけど、誤解させる手法」を元に、統計データに対する扱いの改善を訴えてみよう。

データの定義を確認すること


統計データの取り扱いは、様々な点で注意を要する。そのすべてを一つの記事に書くわけにはいかないので、今回は、データの定義を確認する重要性を確認しよう。

データの定義とはつまり、「そのデータが、何を表しているデータなのか」ということだ。そんなもの、誰だって確認するに決まってるし、統計データというのは「○○のデータ」というように、なんのデータか分かるように発表される。

確認するまで隠されているような怪しいデータは、そもそも誰も信じないだろう。そう思う人もいるかもしれない。

甘い。

甘いんだなぁ、それじゃ。

たとえば「就職率」。2016年の5月に、文部科学省、厚生労働省は春に卒業した大学生の就職率が過去最高の97.3%になったと発表した。おおすごいじゃないか。一時期の就職氷河期はどこへやら。

両省は景気回復のおかげで、就職率が回復したんだろう、なんて分析したらしい。

すごいよね。97.3%よ? 就職氷河期と呼ばれた2003年の就職率調べてみな? なんて出てくる? 55.1%って出てこないか? 92.8%って出てくる資料、どのくらいある?

就職氷河期なんだから、就職率が92.8%もあるわけないだろ。そう思うよね? ところがどっこい。92.8%なんだなぁ、これが。

就職率の持つ二つの意味


就職率という言葉は、二つの意味で用いられている。これが混乱の元だ。

一つは、たぶん我々が真っ先に思い浮かべる意味。卒業して就職した人の総数を、卒業した総数で割って求める割合。

もう一つは、卒業して就職した人の総数を、卒業して就職を希望している人の総数で割って求める割合。これは、内定率とも呼ばれている。区別するため、本記事中では、以後この意味の就職率を、内定率と呼ぶことにする。

さて、就職率と内定率では、分母が違う。だから計算結果も変わってしまう。これは当たり前だ。

「卒業した総数」と「卒業して就職を希望している人の総数」では何が違うかと言えば、もちろん、前者は就職を希望していない人も分母に入るが、後者はそれが含まれないということだ。

当然ながら内定率の分母の方が、就職率の分母よりも小さくなる。よって、内定率は就職率よりも高くなるのが当たり前。実に、内定率は計測を開始した1996年以来、一度も91%を下回ったことがない。

近年で最も就職率の低かった2003年でも、前述の通り、92.8%の内定率が記録されている。

あ、信じない人がいるかもしれないから、参考資料を張っとこう。


と、このように、「これが就職率のデータです」と統計データを見せられたとしても、それが実際に何のデータなのかはまだ分からない、そういうケースがあることになる。

特にこのように、同じ言葉が二つの意味で使用される場合、一方では就職率として使い、一方では内定率として使うようなインチキすら可能になる。

2003年には55.1%しかなかった就職率が、2016年には97.3%まで上昇しました」というように。このような表現は、馬鹿でなければできないはずだが、困ったことに、日本語としては間違っていない。嘘はついてない。

だが、嘘はついていないが、わざと誤解させようとしている事例は世の中には転がっているものだ。そういうものを見抜ける力はほしいだろう? ならば、データの定義を確認する癖をつけておいた方がいい。

どうして内定率はそんなに高いのか


ちなみに、就職率と内定率で、どうしてそこまで開きが出るのか、疑問に思う人もいるだろう。

内定率調査というのは、年に4回行われる。最後に行われるのは4月だ。4月、もう、新学年になるその時期に「就職する意思はあるけど、就職決まってません」という人はそれほどいない。

なぜならば、それより前のどこかの段階で、試験勉強を始めるなり、進学するなり、もうむり今年はあきらめようって就職の希望をなくしてしまったりするのが普通だ。フリーターは就職と見なされないから、フリーターになることにした人も「就職を希望しない人」に分類される。

ということは、なにかしらの合理的な形で次のステップを決めてしまった人は、内定率の分母から外されていることになる。内定率の分母になれるのは、それでもあきらめずに就職したいと思っている人だけでしかない。

そりゃぁ、内定率は高くなるよね。

内定率調査の第一回目は10月に行われるけれども、この時期の内定率は例年、最終内定率よりも2030%ほど低い。だんだんと、調査回数が増えるごとに、上昇していく。

これを単純に、「そりゃあ徐々に内定者が増えていくんだから、そんなの当たり前だろう」と思ってしまった人は危ない。統計のトリックに騙されやすいタイプだから、もう少し気を引き締めてデータを扱った方がいい。

ここまでの説明で明らかなように、就職以外の進路をとる人、就職をあきらめてしまう人も、徐々に増えていくはずだ。もし仮に、第一回目の調査と、第四回目の調査で、内定者の数に変化がなかったとしても、就職希望者数が減少していれば、内定率は上昇する。

もちろん、勘違いしてはいけないよ。私は、時が経つにつれて内定者が増えることはないと言っているのではない。増えているとは限らない、といっているだけだ。この違いは、統計データを扱う上では非常に重要だから、こういうある種の「細かすぎてうざい考え方」も身につけておいてほしい。




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