2017年8月20日日曜日

社会的改善を求める人に、自分が先にやれというのはおかしい

社会に対する改善要求はたくさんある。変化を拒む人や、揚げ足取りをしたい人などは、「先に自分でやってから言え」と主張したりする。

しかし、別にそんな必要はない。先に自分だけやっておかなければいけないなんてことはない。軍縮であれ、賃上げであれ、それは他勢力と足並みを揃えてやるべきものだ。

ニコニコ動画のニュースで、中日新聞の社説の記事が掲載されていた。違和感を覚えたので、これについて語ってみる。

軍縮というのは、一国が勝手に率先するようなものではない


歴史上、軍縮協定というのはいくつも結ばれている。一国が必要とする軍事力は、絶対値で決まるのではなく、相対値で決まる。つまり、他国の軍事力が弱まるなら、自国の軍事力も弱められる、というようなものだ。

逆に、他国の軍事力が高まるなら、自国も高めねばならなくなる。ある種、軍事力は競争のようなものになっている。

さて、たとえばある国が軍縮を提案する時に、「まずおまえの国が軍縮しろ。他国にも求めるのは、その後だ」などと言ったら笑われるだろう。軍事のことが何も分かっていない、と。

主要国同士話し合って、軍事力の相対関係をある程度維持したまま、各国が同時期に軍縮を行うという約束の下、初めて軍縮は実現する。それが当たり前だ。

賃金というのも同じようなものだ。一社だけが賃金を上げてしまえば、他社との経済競争力で不利を受けてしまう。社説として「時給を1000円にするべきだ」という主張を、時給1000円を提示していない状態で行ったとしても、それは何もおかしなことではない。

もしこの主張がおかしいとしたら、それは「他社が時給1000円にしても、うちは910円のままだけどね」という場合だ。それは確かにおかしい。軍縮協定を受け入れておきながら「やっぱうちは軍縮しませーん」と言っているようなものだから。

ブラック企業はどうして増殖するのか


このことは、ブラック企業が増える理由を考えてみれば分かる。

そもそも、社会にはある程度ブラックな要素はある。労働基準法など、昔から遵守されていない。しかし、それでも昨今、余計に無視されるようになってきているように感じる。

なぜか?

ブラック企業はホワイト企業を駆逐するからだ。悪貨は良貨を駆逐する、というのと似たような理屈だ。ブラック企業が増えれば増えるほど、ブラック企業が増えやすい。なぜならば、ホワイト企業がやっていけなくなるからだ。

中には「ブラック企業を非難するのはおかしい。企業だってホワイトではやっていけないんだから、ある程度我慢しなきゃいけない」と考える人もいるようだ。だがこれは、順序が違う。ブラック企業が存在しているから、ホワイト企業がやっていけなくなるんだ。

同じ製品、同じサービスを提供している2社があり、一方がホワイト企業で、一方がブラック企業だったら、どっちが市場を制するか? 簡単だ。ブラック企業に決まってる。だって、ブラック企業の方が、同じような価値のものを、より安く提供できるのだから。

同業他社がブラック化し、不当に安売りを始めたとき、ホワイト企業はどうしたらいいか? 製品の価値を高め、質で勝負するか?

しかしミートホープの社長も言っている。「消費者が安いものばかり求めるのが悪い」と。そんなことは犯罪の言い訳にはならないが、この言葉自体は事実だ。ある程度の質が保証されていれば、あとは安いものの方が需要がある。

よって、ホワイト企業が、ホワイト企業のままでは経済競争に負けて淘汰されてしまう。生き残るためには、自分もブラック化するしかない。

かくして世間で生き残れるのは、ブラック企業ばかり、という図式になる。

このとき、生き残りのためにある程度ブラック化してしまった企業が、「しかしもっと労働法規は守られるべきだし、労働者の権利にも配慮するべきだ」と主張したら、「おまえが言うな」と返すのだろうか。

「だったらおまえのところが手本を見せろ」と、倒産覚悟でそれをやってからでなければそのような主張は不当だと、そんなことを言っているから改善が遠のくというのが分からないのだろうか。

その企業はきっと、「他社も同条件で経営してくれるなら受けて立つ用意がある」と言いたいのだろう。自分のところだけが不利な条件は飲めないが、対等ならかまわないという態度の何がおかしいのだろうか?

軍事力も競争だし、経営も競争だ。競争においてルールの変更を求めるとき、変更後のルールに従うつもりさえあれば、現在自分たちも守っていないようなルールを提案しても問題ない。スポーツのルールだって、およそそのようにして整備されてきているだろう。


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