2017年8月25日金曜日

哲学の謎-私が一番好きな本

そういえば、ここはアフィブログだった。少しは商品の紹介とかして、売り上げを出しておかないといけないのではないか。

というわけで、本を一冊紹介しよう。私が一番好きな本だ。誰にでもおすすめできる。それこそ、すべての地球人に。

野矢本との出会い


今回紹介する本は『哲学の謎』。東大教授の、野矢茂樹が書いた本だ。私が最初に野矢さんの本を読んだのは、20年ほど前だったかと思う。とある掲示板で相手をしてくれた、とても優秀な人に『哲学・航海日誌』をおすすめされた。

あれは確か、規約主義についての話を理解するためだったと思う。そのあまりのわかりやすさと平易さに驚いて、それ以来野矢本が好きになった。

哲学の謎は2冊目の野矢本だっただろうか・・・あるいは、『論理学』か『無限論の教室』あたりが挟まっていた可能性もあるが・・・そこまで細かくは覚えていない。野矢さんの『論理学』もとてもいい本だから、そのうち紹介するかもしれない。

そういえばあの頃、私は何故か野矢茂樹を、矢尾茂樹だと思っていた。野矢と矢尾では、矢しか一致していないのだが、私は本当に「矢尾さん」だと思っていた。掲示板で「矢尾さんが云々」という話をしたら「多分野矢さんのことだと思いますが」と返されて気がついた。

どうしたら野矢と矢尾を間違えるんだろうね? 誰か心当たりある?

くっそ素朴な疑問が詰まっている


それまでに手に取ったことのある哲学書というのは、もっとずっと読みづらかった。漢字そのものがなんて書いてあるのかも分からない。学を學と書いてあったりする。言葉遣いもまどろっこしく、形式張っていて、ひたすら読みにくい。

哲学書というのは、基本的にそういうものだと思ってた。

が、『哲学の謎』はとても読みやすい。その読みやすさは、私の親戚の折り紙付きだ。あいつはあまり勉強ができるとは言いがたいのだが、私がプレゼントしたこの本をとても気に入ってくれた。「一度読み始めると、読み続けてしまう」と、私と同じ症状まで発しながら。

扱っているテーマが、あまり学術的でないのも取っつきやすさの一つだろう。○○学で解決するような話が出てこない。

たとえば「世界に誰もいなくなっても、夕焼けは赤いのだろうか」などという問題を、大まじめに扱ってくれる。「世界が五分前に、五分より前から存在していたかのような姿で誕生したと考えても、筋は通る」というような話も、章一つを割いている。

そういった、他愛もない、我々の生活とは何の関係もなさそうな話を、至極論理的に進めているんだ。

酔っ払いの人生論なんかも、他愛のない、勝手な思い込みが展開されるという点で、若干似た臭いをかぐ人もいるかもしれない。が、これは全然違う。

主題は空想的で、科学的解決の求め方は難しいが、議論の進め方はひたすらに論理的だ。酔っ払いの人生論とはここが違う。彼らの主張は思い込みと決めつけであり、論理性とはかけ離れている。

語り口も柔らかく、登場する二人の人物はボケとツッコミを繰り返しながら・・・いや、主にツッコミとツッコミを繰り返しながら、話は進んでいく。

全カ国語になるといいんだが


本を点数で評価するとしよう。おもしろさ、読みやすさ、役に立つかどうか。読みやすさの中には、読んで理解しやすいかどうかも含めるとしよう。こうして、三つの項目で採点するのであれば、私はこの本に対して、総合点では最高点を与える。

もっと面白い本はあるだろう。もっと読みやすい本もあるだろう。もっと直接的に役立つ本だってあるはずだ。だが、総合ならどの本にも負けていない。

これほど読んで面白く、内容が理解しやすくて、多くを学べる本はないだろう。

もっとも、学ぶという点では、若干の資質は必要になる。この本自体は、何も答えを教えてくれないからだ。ごくわずかばかり、たとえば「八本足でないならば、宇宙人ではない」という主張は、対偶をとると「宇宙人であるならば、八本足である」という主張と等しい意味になる、というようなことは学ぶことができる。

だが、こんなものは論理学の本、もしくは数学Aでも最初の方で学べる程度のことだ。そんなことは問題じゃない。

大事なのは、議論の進め方。

まず相手の主張を聞き、そして理解して、それに対してどう伝えれば反論になるのか。しかもそれが、反論のための反論などというくだらないものではなく、議論を進めるために必要な反論にするためには、どうしたらいいか。

そういうことを、実例として示してくれる。

私は常々、議論とは「異なる意見を持つ者達が集まり、よりよい答えに到達しようとする共同作業」と考えてきた。人々が好き好んでやってるような「誰が正しいかの言い争い」などは、争論と呼んで区別している。

私に対して議論の進め方を、最初に示してくれたのは多分この本だっただろう。そしてまた、対話編に慣れるという意味でも、この本はとてもいい教科書だ。

世の中には対話編・・・誰かと誰かの会話を通して話を進める作文のテクニックがあるが、ほとんどの場合は茶番に過ぎない。

作者の主張を代弁するAと、Aに反論してわざと負けてくれるBで構成されるのが普通だ。そういうの、見たことあるだろう?

もちろん『哲学の謎』は、そんな下等な対話編ではない。野矢茂樹自身の思考や葛藤を表したもの。自分もまた文章を書くのが好きで、いつか対話編を書くこともあるかもしれないと思うのなら、これほどいい教科書は、プラトンの対話編になってしまうだろう。

あれも面白いが、ちょっと、一般向けではない。面白いか、読みやすいかと言われると、個人差が激しそうだ。


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